2011年10月10日月曜日

かふぇえ




この界隈のかふぇえには 怪しげな連中が
出入りしてるって 噂だぜ

棚には 霊験あらたかな経が積まれて
客の方が 品定めされるんだとよ

奥のまかないから 匂ってくるのは
天竺わたりの 抜け荷の香料だとさ

ここの主の 仕掛けそろばんをはじく音
きいたことあるかい 斬首台の物鳴りだぜ

向かいの奴は 幻燈から迷い出たにちげえねえ
なるほど 良い男っぷりじゃねえかい

おっと つれあいの色っぽい女
写し絵の怪だから 口説くのは難儀さ

それとよ おめえの目の前の変化額
閻魔さまの謎かけだから うかつに答えちゃならねえ

まあ それでもよ おいらだって何さ
ただの 唐傘の化けもんだからよお

うかつに 信じちゃなんねえ
長いべろで 嘘をつくなんざ朝飯前だ

けどな ここは存外居心地の良いところさ
おいらのお仲間も いくたりか顔をのぞかせる

あんたの隣の人 だいじょうぶかい
ほんとうに あんたの知った人かい

この界隈のかふぇえには 怪しげな連中が
出入りしてるって 噂だぜ

初恋




車窓に映るあなたを見送った あの日 僕は恋をした

言葉ではなく あなたを心で呼びかけるようになり

気に留めていなかったできごとが 見えるようになり

そのことに 戸惑いながら はじめましてと挨拶をする

あなたが 僕のその戸惑いを 花でも摘むように

ゆっくり 解いてくれたのは それからしばらく後のこと

2011年8月8日月曜日

君だけに

君だけにしか見えないものを
丁寧に言葉に乗せると
やわらかく誰かの心に残る

君だけにしか見えないものを
誰かのそれとつなげると
素敵な恋になるかもしれない

君だけにしか見えないものを
大切な秘密のように心にしまえば
君が迷った時の標になるだろう

君だけにしか見えないものを
いつか君がなくしてしまっても
きっと誰かがそれを探してくれる

君だけにしか見えないものは
息をひそめる宝のように
いつでも誰かを待っているものだから

2011年5月28日土曜日

掃晴娘

祈りは小さな痛みをともなう

それは誰か大切な人のことを想うから

生きることが小さな痛みをともなうから

もどかしさに心さわぐかもしれない

取り戻せない時を責めるかもしれない

だけど その痛みは

想い人の のびやかなほほえみや

交わされる柔らかな言葉で

きっと消えてしまうのだね

あした天気になあれ

あなたの心が晴れやかでありますように

2011年5月23日月曜日

何故あなただったのだろう

何故あなただったのだろう

誰かが何度も問いかけている 

何故あなたが逝ってしまったのだろう

誰もが何万回も問いかけている

答えはみつかるのだろうか

神様の言葉や図書館の暗がりに

あるのだかどうだかあやふやだ

たいがいはそのまま時を過ごすのだね

でも確かにわかることだってある

ほかの誰でもないあなたで良かったと

あなたと過ごすことができて良かったと

それは不思議と心に落ちる

だからこそきちんとお別れをしよう

ありがとうをきちんと伝えよう

神様のスパイス

今日は特別な日だと思うの
誰かがスパイスを使いこなすような

カルダモン コリアンダ ターメリック

適切な量とタイミングなのね
生まれたのがこの日でなければ
あなたと私は出会わなかったかもよ

クローブ パプリカ セロリ

たぶん神様のスパイスなのよ
おごそかなレシピがあって
あなたと私が出会ったってこと

サフラン タイム フェンネル

神様だって全部覚えていないから
ちょっとだけ私が腕をふるうわ
つまり人生のレシピね

ナツメグ ジンジャ シナモン

最後の 最後のお別れの日に
あなたに言わせたいの
ありがとう おいしかったって

オレガノ クミン バジル 

今日は特別な日だと思うの
神様がスパイスを使いこなすような

2011年5月14日土曜日

足りないもの

 
足りないものと足りているものの
境目はどこにあるのかあいまいだけど

足りないものと足りているものの
ほんのささいな違いはむしろ楽しい

それでもあなたのことは いつだって気がかりだ

伝えていないことがないか確かめたくなる
守るべき秘密を数えるくらい慎重にね

思い煩うことがないのか確かめたくなる
それは人生の天秤にかけてどれほどの重さだろう

そうだよあなたのことは いつだって気がかりだ

あなたと私の距離を測りながら
その間を繋ぐ言葉があふれていることを望むよ

あなたの居ない日々を想像するのは難しい
あなたが生まれる前のことを想像するくらいにね

足りないものと足りているものを
時々そうやって確かめることにするよ